9月某日の稽古後、『MUDLARKS』の作者ヴィッキー・ドノヒューさんと

リモートで初めてお会いしました!

その時お話ししたことを、少しだけご紹介いたします!

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ヴィッキー・ドノヒュー(以下、ヴィッキー)こんにちは!やっとお会いできましたね!

髙田曜子(以下、髙田):今日はお時間ありがとうございます!お会いできて本当に嬉しいです。

ヴィッキー:こちらこそ、私の戯曲を上演してくださって本当に嬉しい、光栄です。本当にありがとう!

私も画面の向こう、そちらの稽古場に行って、稽古のプロセスを皆さんとご一緒できたらどんなにいいだろう、と思います。 でも、今こうして、日本で私の作品に向き合って取り組んでくださっている皆さんがいると思うと、すごく不思議な気持ちがしますね。

稽古場でカンパニーの一員として、アンサンブルとして一緒に作品に向き合うことが、劇作家の大事なプロセスだと思っているんです。「書く」という仕事はとっても孤独。だから、今こんなふうに皆さんと繋がって一つになれていることがとっても嬉しいです

玉置玲央(以下、玉置):ヴィッキーさんの作品が日本で上演されるのは、今回が初めてですか?

ヴィッキー:日本での上演は、全く初めてです! 以前、10ページ分だけですが、フランスでフランス語に翻訳された『MUDLARKS』を聞く機会はありました。外国語に訳された自分の戯曲を聞くのはすごく特別な体験でしたね。

田中穂先(以下、田中):日本初上演、じゃあ僕たちにかかってますね。

ヴィッキー:そんなそんな、大丈夫(笑)。でも日本で初めて上演される、というのは私にとってもすごく大きなことだし、とっても楽しみにしてますよ!

玉置:日本で『MUDLARKS』はどんな風に受け入れられると思います?

ヴィッキー:日本のお客様はどんな反応をするだろうという緊張はもちろんあります。

フランス語に翻訳された時、その翻訳家の方に「フランスには、イギリスにあるのと同じ階級システムはないんです」と言われたんです。それを聞いた時は心配したのですが、観客はそれぞれに何かを見出してくれていました。このことが私に自信与えてくれましたね、『MUDLARKS』はどこへでも行くことができる、あらゆる人に受け取ってもらうことができる、と。世界中どこにでも貧富の格差はあって、社会の多数派から除外されて取り残されていると感じている若者たちがいる。だからどこでも通じる物語だと思うんです。もちろん、イギリスでは『MUDLARKS』は階級システムを描いているけれど、でもそれだけじゃない、そう思ってます。今日ぜひ聞いてみたかったのだけど、日本には階級システムはあるの?

玉置それでいうと、ないですね。

川名幸宏(以下、川名):でも、貧富の差はあると感じるし、地域による格差も存在する。だから、その感覚は共有できるし理解できるんです。

今僕たちはリサーチをしたり、いろいろな資料を見て、『MUDLARKS』の舞台であるエセックスのことをなるべく知ろうとしてるんですけど、ヴィッキーさんから見たエセックスは、どんな景色、どんな場所なんでしょう?

ヴィッキー:おもしろい、不思議なところですね。ロンドンのすぐ隣なんです、今私が住んでいるところからもロンドンが見える。ロンドンの煌めく光が見える。とても野心的で、ここに住んでいる人の大多数は保守党に投票した、そしてとても競争意識が強い。エセックスはイギリスの南にあたるわけだけで、「豊かでお金持ち」と見られてます。エセックスのほとんどの人たちがロンドンに通勤して、ロンドンで働いています。それこそ銀行とか、女性は金融街の企業の秘書とか。素敵なお家に、車があって、子供が2人。そんな人たちです。でも、その水面下には、そうじゃない、もっと普通の人たちがいる、エセックスの一部の地域は忘れられてしまっているんです。『MUDLARKS』に出てくる少年たちは、テムズ川沿いの工業地帯にいて、彼らの親もその親もそのまた親も、代々その船着場で働いてきた。けれど今はそういう仕事が減ってしまった、だからテムズ川沿いのこの地域には貧困があるんです。テムズ川は、お金があるシティ(金融街)から始まり、海に向かって流れていくわけですが、私が今いるところ、ここにはお金がなくて、そして海の方へ行くとまたお金があるんですよね。実際海の方は素敵なエリアなので、ロンドンから行く人もたくさんいますよ。でも、『MUDLARKS』の舞台となったここ、この工業地帯には何もないんです。

川名:なるほど。日本にもそういう地域はありますよね。

ヴィッキー:『MUDLARKS』の舞台になった場所の写真、もしよかったら送りますよ!

永島敬三(以下、永島):嬉しい、ありがとうございます!

川名今もエセックスに住んでるんですか?

ヴィッキー:そうです。出身は、エセックスのビラリキーというところなんですけど。「TOWIE(The Only Way is Essex)」っていうテレビの番組、聞いたことあります? ほんとにひどいリアリティショーで、ビラリキーの中でもとくに野心的な地域が舞台になっていて、派手な髪型にメイクの金持ちぶった人たちが出てくる。私はそこの出身(笑)。でも『MUDLARKS』の舞台である(エセックスの)グレース出身の男性と出会ってしまって、ここを離れられなくなっちゃいました。だから、今もここに住んでます。

一同:おおー。

ヴィッキー:ここ(グレース)はとても良いところ。ちゃんとコミュニティがある。ビラリキーは、何ていうか、みんなロンドンに通勤していてロンドンのメンタリティというか。東京にもそういうのがあるのかしら、みんな下を向いて急ぎ足でつかつか歩いているというか。でもここでは、みんなが、「こんにちは!」「元気?」「大丈夫?」と声を掛け合う。だから結構良いとこよ。

玉置実はヴィッキーさんに相談があるんですけど

(※劇中で少年たちが話題に上げる人物の名前を変更できないかという相談。耳で聞くとすぐに性別がわからないかもしれない、と、事前にメールで投げかけていました。)

髙田:思い切った相談ですよね、ごめんなさい…!

ヴィッキー:全然問題ないですよ! だって一番大事なのは、観客がこの『MUDLARKS』の世界に没頭して、彼ら(3人の少年たち)に恋をして心を奪われること。見ている時に何か引っかかったり、邪魔するものがあったら嫌だなと思う。だから劇中に出てくる名前を変えることは全く問題ないです、日本の上演でうまくいく名前にしましょう。名前の候補、送りましょうか? イギリスの女の子の名前をいくつか考えて送りますね。

髙田:ありがとうございます!

ヴィッキー:最初に『MUDLARKS』が上演されたのは、かなり裕福な地域の劇場でした。客席にいるのも富裕層のお客様。だから最初に少年たちが出てきて、唾を吐いたり、ジェイクが嘔吐したりしてるのを見てみんな「うわっ・・」という反応だった、彼らに嫌悪感を抱いたの。でも、それこそがこの戯曲のポイントで。だって一本通りを渡れば、彼らのような若者たちがいるのが現実だから。でもね、芝居が終わる頃には観客はみんな彼らのことを大好きになっていたのよ。みんな彼らの未来を願っていた。同じことが皆さんの公演でも起きたら良いなと思います。だからとにかく、勇気を持って、怖がらないで。芝居が終わった時、きっと観客が包み込んでくれているから、大好きになってくれているから。大事なのは、勇敢でいること。勇敢にね!

キャスト一同:了解!

川名 僕たちが上演するスズナリという劇場は、個性がある、この戯曲にあった雰囲気がある劇場なんですよ。

ヴィッキー:ブッシュシアターに行く前、ロンドンのシアター503という小さな劇場で上演したんです。ブッシュシアターの舞台セットはオープンで、私が戯曲を書きながら頭の中で想像していた通りの空間だったんですが、シアター503はとてもとても小さな劇場で。でも、だからこそすごく濃密で集中力のグッと高まる舞台になりましたし、その閉塞感が、閉塞感というのも一つポイントなので、すごく良かった。

だから、今皆さんが上演する劇場のことを聞いて、その劇場の空間で、この作品がどんな風に受けとってもらえるか、すごく楽しみになりました。上演する空間やそこのエネルギーによっても作品は変わってくると思うので。

川名ヴィッキーさんにも劇場で見てもらいたいなあ。本番の映像、送りますね!

田中:今日、ヴィッキーさんから、エセックスのことを伺えてすごく色々なことが見えてきた気がします。戯曲に登場する、チャーリー、ウェイン、ジェイク。ヴィッキーさんの友達に、実際に彼らに近い人たち、モデルにした人がいたりしましたか? 子供の時の友達でも、大人になってから知り合った人でも。

ヴィッキー:実は…もう20年も一緒にいる私のパートナー、彼がウェインって言うの。

永島:ええー! 

ヴィッキー:で、彼はリヴァプールを応援してる。

永島おおー! まさにウェインだ!

ヴィッキー:でしょ(笑)。けどそれってすごく珍しくて。エセックスでリヴァプールを応援してる人なんていないのよ。すごく遠いから。質問に戻ると、私のパートナーのウェインの友達はみんな、いわゆる「悪ガキ」で、とにかくバカなことをたっくさんしてた(笑)。劇中にスイミングプールの話があったでしょ、隠れて待ってたっていう。あれは私のウェインの話。彼や彼の友達が10代の時の話なの。すごいでしょ、彼らのエネルギーって。例えば、歩いていて誰かの家のブロック塀があったら、それを蹴り崩しちゃうみたいな。なんでそんなことするの?って思うけど、彼らからすると、だって面白そうだったから、って(笑)。

玉置荒唐無稽だなあ。

ヴィッキー:そうなの。とにかくすごいエネルギー。エネルギーなんだと思うのよね。

玉置どうなるか見てみたかっただけ。ってやつだ。

ヴィッキー:そう! まさに。

田中:なるほどなあ。聞けてよかった。

ヴィッキー:どういたしまして。こういう話ならいっぱいあるから(笑)

玉置ヴィッキーさんに聞きたいことはたくさんあるけど、でもあとの答えは、今は自分達で見つけてみる。だから僕らがどんな『MUDLARKS』を作るか楽しみにしていて。

ヴィッキー:本当に、すごく楽しみ! 皆さん、とにかく楽しんで。そして勇敢に、思い切ってね。それから、あの少年たちの中にあなたの真実を見つけてほしい。今朝、戯曲を読み返してみて、彼らは本当にすごくたくさんのことを経験して戦っているんだと思ったから。本当に胸が痛くなる。でも、楽しんで、楽しんでね!

キャスト一同:はい!

ヴィッキー:今日は本当にありがとう、会えて嬉しかった!お稽古頑張って、楽しんでね。

玉置あ、でももしどうしても…

ヴィッキー:なんでも、どんなことでも何かあればいつでも連絡してくださいね。

川名ありがとうございます!

田中:でも今日、いろんな話を聞いて、僕らの戯曲解釈、けっこういい線いってます!

ヴィッキー:素晴らしい!楽しみですねー。素敵な1週間を!

玉置はい、ヴィッキーさんも素敵なランチを。

ヴィッキー:ありがとう! 皆さんも。あ、皆さんはディナーかな。じゃあまた〜!

作家の方とお話しし、こうやって直接想いや意図を伺うことができるのも、現代戯曲だからこそ。
ヴィッキーさんとは稽古の進捗も共有しながら、稽古が進行しています。
9月29日より劇場で販売する公演パンフレットには、ヴィッキー・ドノヒューと演出の川名幸宏の対談を掲載。
戯曲に込めた想いや、パンデミックを経た世界における若者と若者の未来ついて語り合っています。
こちらもぜひご期待ください。